【お茶のプロが考察】なぜ紅茶はコーヒーに勝てないのか?
「なぜ紅茶はコーヒーに勝てないのか」?
少し挑戦的なタイトルですが、なんとなく同じことを考えている方は意外と多いと思います。
飲食店に入れば「セットのお飲み物はコーヒーと紅茶、どちらにしますか?」と聞かれる・・・という光景は、もはや日常的ですね。このように、お茶と並んで選択される機会がとても多い飲料「コーヒー」。
「負けてない!」「そもそも全世界の消費量ではお茶のほうが上」
人によっては「文化的なものや歴史的なものを含めて、圧倒的に茶のほうが勝っている!」と気色ばむ人もいるでしょう。
私も会社を立ち上げてしまうくらいのお茶好きなので、思わずそう言いたくなる気持ちはよく分かります。(コーヒーも好きです)
もちろん「コーヒーと紅茶どちらも大好き!」、または「コーヒーは苦くて飲めない」という方も多いでしょう。しかし、一般的な普及度や人気でいうと、コーヒーにややリードを取られている感はやはり否めません。
特にビジネスマンの男性などは、日常的にほとんどお茶を飲まないという方も一定数いらっしゃる印象があります。
では、話を限定的にして、現代日本でお茶よりコーヒーが飲まれるのは一体なぜなのでしょうか。
ちなみに、実は戦後はお茶のほうが割合が多かったのです。
ですが1980年ごろからは拮抗、2000年を境にコーヒーが上回る形になっています。
*ここでは緑茶や紅茶も含めて「お茶」と表記します。
お茶がコーヒーに勝てない3つの理由
さて、なぜコーヒーが飲まれる割合が徐々にお茶を上回っていったのか。これに関しては、私は大きく3つのことが関係していると推測します。
- コーヒー文化への憧れ
- 生活環境
- 飲んだときの満足度
この3つですね。
ひとつひとつを詳しく解説していきます。
1.「コーヒー文化への憧れ」
こちらはわかりやすいかと思います。
戦後から昭和の時期は、アメリカを始めとした欧米圏の文化への憧れというものが間違いなくありました。
そして戦後一番身近にあったのがアメリカで、アメリカ人達はコーヒーを飲んでいることが多かったから。
今でもその憧れは多少はあるはずです。
2.「生活環境の変化」
これについては、お茶を飲むときの環境の変化です。
現代では、あらゆるスピードが早くなり、なかなかゆったりする時間を取ることが難しくなりました。
しかし、お茶を楽しむには、やはりゆったりする時間が必要不可欠なんですね。
例えば、これは以前の中国の話になりますが、私が半分仕事半分趣味で福建省を始め、広東省や安徽省を訪ねた時のことです。みなさんあまり仕事してないんですよね。お茶を飲み、タバコを吸いながらまたお茶を飲んでいる。けっこうのんびりしたものです。
紅茶も、そもそもアフタヌーンティーというものがあるくらいですので、リラックスする時間を楽しむのが本来の目的です。
それでも女性はカフェでおしゃべり等をすることが多いため、お茶を好む場合も比較的多いかもしれません。
(コーヒーが苦手な方も一定数いらっしゃいますが。男性はいつもばたばたしている感じがします。)
お茶と比べるとコーヒーは、リラックスした時間を楽しむのではなく、ほっと一息いれるイメージなのだと思います。たとえるとタバコのような感じでしょうか。
気持ちに余裕がないので、リラックスさえも短時間に凝縮して終わらせようとしているようです。
お茶をゆったり楽しめるような時間の余裕がない、というのが結論かもしれません。
3.「飲んだときの満足度」
最後の「飲んだときの満足度」とは、つまり「コーヒーの方が紅茶よりも飲んだ感じがする」ということ。
こちらに関して「どういうこと?」と不思議に思う方もいるかもしれません。しかしこの考察はあながち間違っていないような気がします。つまり、①色の濃さ・②香りの強さ・③飲み心地といった部分の違いです。
たとえば①色の濃さは、お茶は少し透明度の高いものが多いのに対して、コーヒーは不透明の濃さがあります。
続いて②香りの強さ。これに関しては香りの質の違いでしょうか。ローストした温かみのあるしっかりした香りと自然な華やかさの香りといった違いかもしれません。
最後に③飲み心地。飲んだ時の満足感やのどごしといっても良いですが、なんというかコーヒーの方が質量が多い気がします。紅茶にもボディ感の強い茶葉はありますが、コーヒーのそれと比較してしまうと物足りなさを感じる方もいるかもしれませんね。
先ほどの2.「生活環境の変化」でもお話ししたように、満足感を与えてくれる点はコーヒー
私の感覚ですが、お茶は「空間に広がっていく」イメージですが、コーヒーは「ある領域を濃くする」イメージがあります。(あくまで個人的な感想ですのでわかりにくいかもしれません。)
お茶に置き換えることは可能か?
では、例えばミルクティーはどうでしょう。こちらは飲み心地があると思います。色に関しても不透明な白ですし。ただおそらくコーヒーの代替えにはならないと思います。理由は色が白よりも黒の方が濃いイメージがあるからと、味の強さといった面でコーヒーの方が上だと思うからです。
では抹茶はどうでしょう。色も濃く不透明で、飲み心地もしっかりしています。良い抹茶であれば渋くもありませんし。でもカップいっぱいの抹茶を休憩時間に飲みたいとあまり感じないのはなぜでしょう。味の方向性が違うような気がします。
この先お茶の人気を盛り上げるために必要な4つのこと
ここまで、お茶がコーヒーに勝てない理由をお茶好きの目線から考察してみました。
あらためて考えると、コーヒーのガツンとした飲みごたえや、ひと息ブレイクをつく時に適している点が、現代社会のニーズにとてもマッチしていることがわかります。
コーヒーのすごいところは、仕事を頑張りたい時、リラックスしたい時、このどちらのシチュエーションでもマッチする点です。
お茶はリラックスタイムには大変おすすめですが、忙しい合間の気分転換・仕事前に気合いを入れるために飲むという点においては、コーヒーが一歩勝っているという感じでしょうか。
紅茶やハーブティーは好きだけど、バタバタ慌ただしく飲みたくないから仕事中にはお茶は飲まない、という方もいますね。美味しいお茶を飲んでしまうと、「仕事を頑張ろう!」というよりは、仕事に戻りたくなくなります。
ここで終わってしまっては、お茶好きとしては少しさみしいですよね。
では、お茶の人気を盛り上げるためにはどうすればいいのか。私は4つの方法があると思います。
1.生活のスピード感が落ちて遅くなる
お茶をゆったり楽しめるような時間的余裕を持てるようになります。
でもこれはおそらく難しいと思います。個人の努力ではどうにもならない部分もありますし。
2.勝つのは無理なので、今のように勝手に完全に住み分けをする
ニーズに合わせた住み分けをしていく方向。
ただ、今後も生活スピードはあがっていくような気がするので、コーヒーとの差が縮まることはないような気がします。
3.普段飲みの水のような飲料水のようになる
水でさえいくつかの種類があるので、たとえばダージリン、アッサム、ニルギリ、セイロンキャンディーなどと少し薄めで飲みやすいペットボトルのシリーズがあって、それを飲むことが習慣になるとか。
大人気の日本茶シリーズのように紅茶も、といった感じです。(最近少しいろいろなお茶が増えてきましたね。)
こちらは方向性としては悪くないかもしれませんが、今の状況ですとある程度の影響力と資金力がある会社が本腰をいれて取り組む必要がありますね。十分なマーケティングと時間と予算を使わないといけないので、現段階ではまだ難しいような気がします。
4.お茶好きを増やす
コーヒーから鞍替えしてもらうわけではなく、お茶への興味をもっている人を増やす形です。
お茶の歴史やそれに付随する文化的なもの、お茶の作り方や正しい入れ方などを面白いと思ってもらうことはとても良いことだと思います。
でもそれらは既に行われていることですし、興味を持つような人は自分から色々なことをされていると思われます。
これからお茶好きを増やすには・・・お茶を「もっと気軽に楽しめるもの」だと思ってもらうことが大事!
では結局どうすればよいのか。
前の項目で「(お茶好きをもっと増やすには)お茶の歴史やそれに付随する文化的なもの、お茶の作り方や正しい入れ方などを面白いと思ってもらうこと」とお話ししましたが、もっともっとお茶好きを増やすために、私はそれとは逆の方向性が良いと思っております。
つまりもっとハードルを下げ、だれでも気軽に楽しめるものだと興味をもってもらうような形にするということです。
伝統的な格式や紅茶の知識、正しい入れ方、お茶のグレード等にこだわらずにお茶を楽しんでもらう方向にできればよいと思っています。形から入るのもよいと思います。
そもそも嗜好品ですし、楽しみ方の法律なども存在しないのに、知らない人や間違えている人を下に見る風潮がある気がします。百歩譲ってそこまでではなくても、一部のお茶好きの中には「他の人よりも知識がある自分はお茶関係では上だ」と認識している人も多いような気がします。
また間違えたら恥ずかしいとか、本格的な方が偉いと感じる心はあると思います。
ひとつ思いついたのが、英会話に似ているような気がします。
正しい英語の文法を理解していて、発音が完璧で、英語圏の知識もよく知っていても話せない人よりも、多少ブロークンな英語でも恥ずかしがらずにどんどん楽しくたくさん会話する人の方が、英語を使って楽しむことができますよね。そしてどんどん仲間を増やして自動的に英語を広めていっているような気がします。
お茶も、とにかくたくさん飲んで沢山楽しみ、いろいろ間違って変な飲み方も考案して、というようにできれば、もっともっと広がるような気がします。
間口が広がれば、その中の何人かはお茶の歴史やそれらに付随する文化的なものに興味を持ってくれると思います。
そしてその人達はきっと正しい知識や一般的なお茶の味の良し悪しを学んで楽しんでいるときも、いろいろなお茶の楽しみ方をしている人たちが自分たちより劣っていると思ったりはしないはずです。
色々お話ししましたが・・・結論は「勝ち負けではない」!
結論:勝つのは難しい。そもそも勝ち負けではない。
色々とお話をしてきましたが、コーヒーからシェアを奪うということは、現状としてはなかなか難しい。
そもそも勝ち負けはないので、いま私たちにできることはもっともっとたくさんのお茶好きを増やすこと。
これが一番効率がよいし、またこちらとしても気持ちもよいです。
そのためには、作法や形式にとらわれすぎず、とにかくいろいろな好みや飲み方を歓迎し、みんなで楽しい時間を共有することが大事なことだと思います。
そしてドリンク・飲料業界全体を盛り上げていくきっかけになればよいですね。